「ひとしい」がわからない子どもたち──子どもが読解でつまずくのはなぜ?
2026.07.24

「読解力が足りない」
そんなお子さんは、よく使われる言葉の意味からつまずいているかもしれません。
まずは、次の結果を見てみてください。
こちらは、『算数文章題が解けない子どもたち』(今井むつみ、岩波書店、2022年、69ページ)に掲載されている「たつじんテスト」の結果です。小学2〜4年生を対象に実施したところ、「ひとしい」の意味を「同じ」と答えたのは57.1%でした。一方、4割あまりは「大きい」「小さい」と答えるか、無回答でした。
学校で何度も耳にする「ひとしい」も、子どもたちが「同じ」とは異なる意味で受け取っていることがあるのです。
前の記事『常識不足だから勉強が苦手になる?──地頭は「記号接地」で説明できる』では、お子さんがつまずく理由の1つに「常識不足」があるということを「記号接地」という言葉を用いてお話ししました。
▽「記号接地」について詳しく知りたい方はこちらもぜひご覧ください!
今回は、「記号接地不足」から起こるつまずきについて、「読解力」という切り口から考えてみたいと思います。
目次
- 同じ「不正解」でも、迷ったところは同じとは限らない
- 読解の3ステップ
- 一文を読む
- 文と文をつなぐ
- 全体を読む
- 「ひとしい」から、支え方を考える

同じ「不正解」でも、迷ったところは同じとは限らない
実は、小学校の国語のカラーテストやワークでは、お子さんがどこでつまずいて間違えたかは答案だけを見てもわからないことがあるのです。
例えば、次のような問題があったとします。
問題文(架空の説明文)
森のリスは、冬の食べ物としてどんぐりを土の中に埋めます。しかし、どこに埋めたか忘れてしまうことも少なくありません。
これはリスにとって、食べ物が減ってしまうため、大きな痛手のように思えます。ですが、土に残ったどんぐりは、やがて芽を出し、新しい木に成長します。つまり、リスの忘れっぽさが、豊かな森を育てているのです。
問
筆者は、リスがどんぐりを忘れてしまうことを、どのように考えていますか。「痛手」という言葉を使って、30字以内で書きなさい。
正解の例は「痛手のように思えるが、豊かな森を育てていると考えている。」です。しかし、お子さんの回答として、例えば次のような答え方が考えられます。
- 何も書かず、無回答
- 「痛手だけれど、また新しいどんぐりを拾えばよい」と、自分の考えを書く
- 本文の言葉をつなぎ合わせて、「どんぐりを埋めたけれど、忘れっぽさが豊かな森を育てている痛手だから」と書く
採点すれば3つとも不正解ですが、答えを書くまでに迷った場所まで同じとは限りません。
「痛手」の意味がわからなかったのか、「しかし」などの接続詞を手がかりに文をつなげられなかったのか。あるいは、筆者の考えを決められた形で書くところに迷ったのかもしれません。
長い読解問題では、読むために必要な知識や力が多岐にわたるため、「不正解」だけではつまずいた場所が見えにくいのです。
そこで今回は、認知科学者の今井むつみ先生のお話をもとに、「読む」ことを次の3つのステップに分けて考えます。
- 一文を読む
- 文と文をつなぐ
- 全体を読む
順番に説明していきます。
読解の3ステップ
1. 一文を読む
「一文だけなら読めるだろう」と思うかもしれませんが、その意味をきちんとつかむのも、実は簡単ではありません。ここで大きな役割を果たすのが、語彙、つまり言葉の知識です。
次の2つの文を読んでみてください。
不景気で、大学生の就職率が50%を割っています。
食事代を人数で割ると、1人1,500円ずつになります。
どちらにも「割る」という言葉が出てきますが、1つ目は「ある基準を下回る」、2つ目は「割り算をする」という意味です。
このように、文章を正しく読むには、「割る」という言葉を知っているかどうかだけでなく、文脈に合わせて意味を解釈できることが大切です。
『学力喪失』(今井むつみ、岩波書店、2024年)では、「支持率が過半数を割ってしまった」という文の「割る」に近い意味を選ぶ問題で、正しく答えた中学生は45.6%だったと紹介されています。
このように、身近な言葉でも文脈に合わせて読むのは簡単ではないのです。
2. 文と文をつなぐ
一文ずつ意味がつかめたら、次は接続詞などを手がかりに、文と文をつなげる段階があります。
そのためには、接続詞の理解が欠かせません。
例えば、次の文の○○には、それぞれどのような内容が続きそうでしょうか。
アリは小さい。しかし、○○。
アリは小さい。だから、○○。
「しかし」のあとには、「力持ちである」のように、意外な内容が続きそうです。一方、「だから」のあとには、「遠くからは見えにくい」のように、アリが小さいことからそのまま考えられる内容が続きそうです。
この先を予想できるのは、「しかし」や「だから」といった接続詞が文をどうつなぐかを知っているからです。接続詞には、前の文に沿って話を進めたり、反対向きに切り替えたりする働きがあるため、文章全体をつかむうえでも大切です。
3. 全体を読む
一文の意味をつかみ、文と文をつなげたら、段落や文章全体で何を伝えたいのかを考えます。
冒頭のリスの文章であれば、「どんぐりを忘れるのは、リスにとって痛手に見える。しかし、そのどんぐりが木に育ち、結果として森を豊かにしている」という筆者の考えを読み取らなくてはなりません。
また、設問を読んで「この問題は何を聞いているのか」を理解する必要もあります。
書き手が何を言おうとしているのか、作問者が何を答えさせようとしているのかを読み取って初めて、冒頭のような問題に答えられるのです。

「ひとしい」から、支え方を考える
ここで、冒頭の「ひとしい」に戻りましょう。
このテストでは、「ひとしい」を「同じ」と答えなかったお子さんが4割あまりいました。「ひとしい」は学校で何度も使う身近な言葉ですが、その意味を正しく理解するところで迷うこともあるのです。
つまり、3つのステップのうち、最初の「一文を読む」は、できて当たり前ではなく、多くのお子さんにとってつまずきの原因になり得る段階です。長文問題で不正解になったとしても、その始まりは、文章全体や解き方ではなく、たった1つの言葉だったかもしれないのです。
ですから、まず大切なのは、お子さんが3つのステップのどこで迷っているのかを見つけることです。
もし「ひとしい」のような身近な言葉で迷っているなら、ワークや長文問題に進む前に、当たり前に使われる言葉が自然と使えるようになる(=「記号接地」する)ように、サポートする必要があります。
そうして言葉の意味を1つずつつかめるようになることが、文をつなぎ、文章全体を読むための土台になります。
では、言葉の記号接地はどうすれば進むのでしょうか。
そのカギになる「アブダクション推論」について、次の記事でお話しします。
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