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子どもの読書は、「ショート動画化」しているのかもしれない

2026.07.21

子どもの読書は、「ショート動画化」しているのかもしれない

「6年生もだよ? 確かにおもしろい本だよ? でもさ…絵本だよ?」

この数日、そんな投稿がXで1,300万回以上表示されました。

この「学年別の好きな本ランキング」は、「小学生がえらぶ!“こどもの本“総選挙」——全国の小学生が「いままで読んだ中でいちばん好きな本」を1冊投票する企画——の、第5回(2025年投票)の結果です。結果は公式サイトでどなたでも見られます。

"子どもの本"総選挙 公式サイト

この盛り上がりのなかで、私もいくつかデータを投稿しました。ただ、ポストの字数では書ききれないことが、たくさん残りました。
この記事は、その続きです。

「好きな本」ランキングに、いま起きていること

まず、事実から見ていきます。

第5回の学年別ランキングでは、4〜6年生の1位がすべて『りんごかもしれない』。1〜3年生の1位は『大ピンチずかん』シリーズでした(公式サイトの学年別ランキングより)。

【図1】第1回と第5回の学年別ランキング(出典: “こどもの本”総選挙 https://kodomonohon-sousenkyo.jp/ より)

8年前の第1回はどうだったかというと、高学年の同じ欄には『ざんねんないきもの事典』『銭天堂』『ぼくらの七日間戦争』——事典や読み物が並んでいました。

学年別の上位5作品で平均ページ数を集計すると、6年生は第1回の226ページから第5回の111ページへ。5年生は124ページから56ページへ。
どちらも、およそ半分です。かつて高学年の欄に並んでいた長い読み物は、ずいぶん少なくなりました。

【図2】“こどもの本”総選挙・学年別top5の平均ページ数の推移(第1回2017年投票〜第5回2025年投票。公式データより当社集計)

文字数の目安でも、『りんごかもしれない』は約1,000字、第1回の1位だった『ざんねんないきもの事典』は約30,000字(いずれも当社概算)。ずいぶん違います。

念のため添えると、『りんごかもしれない』は第1回でも総合3位に入っていた、息の長い人気作です。「特定の絵本が急に売れた」というわけではありません。
変わったのは、高学年の上位を占める本の顔ぶれです。

ただし、この比較をどこまで信じてよいかには、注意も必要です。それは後半で正直に書くとして、先にもう一つ、意外なデータを見てください。

冊数は減っていません。減っているのは「時間」です

「子どもの読書離れ」とよく言われますが、小学生が読む本の冊数は、長い目で見ると減っていません。全国学校図書館協議会の「学校読書調査」では、小学生の1か月の平均読書冊数は2024年に13.8冊と、過去31年間で最高でした。1990年代のおよそ2倍です(最新の2025年は12.1冊に下がりましたが、なお高い水準です)。

一方で、読書の「時間」は減っています。
ベネッセ教育総合研究所と東京大学社会科学研究所の「子どもの生活と学びに関する親子調査」では、1日の読書時間が「0分」の子どもが、2015年の34.3%から2024年には52.7%へ増えました。平均の読書時間そのものも、小学4〜6年生で1日21.9分から15.6分へと、この9年でおよそ3割減っています。

【図3】1日あたりの平均読書時間の変化(東京大学社会科学研究所×ベネッセ教育総合研究所「子どもの生活と学びに関する親子調査」2025年10月公表資料より当社作成)

時間の行き先も、データにはっきり表れています。
こども家庭庁の調査(10〜17歳・約3,100人)では、平日のインターネット利用は1日約5時間で3年連続の増加。使いみちの最上位は、全年齢で「動画を見る」でした(93.1%)。

冊数は保たれているのに、時間は減っている。

この捻れを素直に解くと、一つの可能性に行き着きます。
1冊が、短く・軽くなっているのではないか。

「読書のショート動画化」という仮説

ここで、いま選ばれている本の「作り」を見てみます。

『大ピンチずかん』も『りんごかもしれない』も、ゆるくて大きなお題に、見開き単位で次々に答えていく構成です。見開きごとに完結し、パッ、パッと面白さが切り替わり、前のページを覚えていなくても楽しめる。

この読まれ方は、ショート動画の視聴体験とよく似ています。

いま進んでいるのは「読書離れ」ではなく、「読書のショート動画化」なのではないか——これが、私たちの仮説です。

ここで、大事なことを一つ。これは「本のショート動画化」ではなく、「読書のショート動画化」の話です。つまり、本の問題ではなく、読み方の問題です。

『りんごかもしれない』も『大ピンチずかん』も、私たちが大好きな、文句なしにすばらしい本です。『りんごかもしれない』は2013年の刊行から13年、世代を超えて選ばれ続けています。それは名作の証です。

問題は、本ではありません。
「この本たちの先」への橋が、架かりにくくなっていることです。

「アフターゾロリ」から、「アフターりんごかもしれない」へ

読書教育の世界には「アフターゾロリ問題」という言葉があります。絵本からゾロリくらいの本までは楽しめても、その後になると急に本が難しくなったり、文字数が多くなったりして、なかなかゾロリより難しい本を読むことがない、という現象のことです(以前、私もAERA with Kids+さんの取材にて詳しくお話しさせていただきました)。

ゾロリは、ヨンデミーレベル20~25ほど。その先へ進もうとすると、判型も文字量も急に変わる「壁」が現れます。そこで足が止まり、長い本から離れてしまう——そんなご相談を、私たちもたくさん受けてきました。

実は、くもん堀割の先生も、娘さんのアフターゾロリ問題を経験されたおひとりです。小1でゾロリにハマって全巻そろえたのに、読み切ったあとは、先生がすすめる本に見向きもしなくなった。それを救ってくれたのが拙著『ハマるおうち読書』だった——と、今年2月に書いてくださっていました。

その堀割の先生が、今回の盛り上がりを受けて、こう投稿されています。

「今の時代、“アフターりんごかもしれない“なのかもしれない。」

かつての壁は、ゾロリの先にありました。もしいま、その壁が絵本のあたりまで、一段手前に動いているのだとしたら。

学校の学習は、教科を問わず「文章を読む」ことの上に成り立っています。壁の位置の変化は、読書だけの話では済みません。

正直に言うと、これは「仮説」でしかありません

ここが、この記事でいちばん大事なパートかもしれません。

というのも、ここまで書いてきたことはあくまで仮説であって、データから「本当にそうだ」と言い切ることはできないからです。理由はいくつもあります。

・総選挙は「好きな本」の人気投票です。子どもの読解力や、読める本の長さを直接示すデータではありません。

・投票の仕組み上、結果に傾きが生まれやすいという指摘もあります。シリーズ名では投票できず、1冊ごとのISBNで投票するルールのため、巻数の多い人気シリーズは票が割れやすいのです。

・投票の手段(書店店頭の用紙・はがき・Web・FAXなど)は回によって変わっており、票数も回ごとに大きく違います(多い回は約25万票、第5回は約6.3万票)。単純な経年比較には、もともと限界があります。

・そもそも、子どもの読書の調査はとても難しいのです。同じ「冊数」を聞いても、対象と聞き方が違えば、まるで違う結果が出ます。

そして、数万人規模で「子どもが実際にどんな長さの本を、どれだけの時間をかけて読んでいるか」を追いかけた調査は、私の知る限り、まだ存在しません。だからこの記事は、5桁の人数を対象にした複数の調査を組み合わせながら、あくまで仮説としてお話ししてきました。

この記事をきっかけに、特定の本が悪者にされたり、「いまの子どもはもうダメだ」のような大きな話に飛躍したりすることは、私たちの望むところではありません。

(もっと深く知りたい方へ: 飯田一史さん『「若者の読書離れ」というウソ』(平凡社新書)、『いま、子どもの本が売れる理由』(筑摩選書)、桜井政成さん『読書スタディーズ』(明石書店)が参考になります)

読書を「ショート動画」にしないために

では、家庭で何ができるか。

無料で、今日からできる方法が、2つあります。

① 『りんごかもしれない』を、繰り返し読む

一冊を、楽しみ切ることです。

ショート動画は、流れて、消えていきます。本は違います。その場に残り、何度でも戻れます。

『りんごかもしれない』や『大ピンチずかん』は、好奇心の入り口として最高の本です。しかも大喜利のような構造を持っているので、「自分なら、りんごを何だと想像する?」「うちの大ピンチ、ずかんに載せるなら?」と、家庭で自分たちなりの展開を作れます。

同じヨシタケシンスケさんなら、自分は『なつみはなんにでもなれる』が大好きです。ぜひ親子でお話ししながら読んでほしいなと思います。

一冊をちゃんと楽しみ切って、言葉と深く出会う。その経験が、結果的にいろんな本を読める力につながっていきます。

ヨシタケシンスケさんから「卒業」する必要なんて、ありません。むしろもっと読んで、「好き」をたっぷり温めていきましょう。

② 「ほんのちょっと上」の本を、そっと差し出す

気をつけたいのは、順番です。読む力がついてきたからといって、大人が「読ませたい本」を渡すと、本嫌いへの最短ルートになります。

子どものタイミングに合わせて、いま好きな本の「ほんのちょっと上」を、そっと差し出す。『りんごかもしれない』の次なら、ヨンデミーのレベルでいうと20〜25くらいの本が目安です。探すときは、こんな道具が無料で使えます。

くもんのすいせん図書(やさしい順に13段階・650冊)

YouTube「ヨンデミーちゃんねる」では、レベルの目安つきで本を3分で紹介しています。このあたりのレベルなら、たとえばこの2本です。

『にんきものひけつ』にんきものって、だれ?(ヨンデミーレベル21):ヨンデミーちゃんねる

『としょかんライオン』図書館にライオンが……!?(ヨンデミーレベル25)ヨンデミーちゃんねる

紹介してきた本の一覧(ヨンデミーちゃんねるブックリスト)

おすすめの使い方は、動画を2〜3本、お子さんと一緒に見て、「どれ読んでみたい?」と子ども自身に選んでもらうことです。自分で選んだ一冊は、渡された一冊より、ずっとよく読まれます。

繰り返し読むのも、先へ進むのも、どちらも豊かな読書です

『りんごかもしれない』を100回読み返す子も、その先の物語へ歩き出す子も、どちらも本の楽しみ方を知っている子です。この記事は、「絵本を卒業させよう」という話ではありません。

ただ、もし「短い本を、流すように読む」ことだけが読書のすべてになってしまったら、それはショート動画と変わらなくなってしまいます。

本は、流れていきません。手元に残って、何度でも戻れて、自分のペースで、どこまでも想像を広げられます。一冊の本と深く出会った子は、そこから自分の足で、次の一冊へ歩いていけます。私たちは毎日、そういう子どもたちを見ています。

だから私たちは、子どもの読書の未来を悲観していません。目の前の一冊を楽しみ切る力と、次の一冊への小さな橋。この2つがあれば、子どもの読書は、ショート動画の時代にも負けないと本気で思っています。

これからも、子どもの読書に向き合い続けます。

笹沼颯太

ヨンデミー 編集部